2007年07月22日

『Monstrance』の時空

 『Monstrance』で表現された音楽は、パートリッジ、アンドリューズ、ベイカーが事前の打ち合わせなしに即興で演奏したものを録音した、というだけで、それが、どのような音楽であるのか説明はありません。それは、何の打ち合わせもなしということは、どのような形態をとるかと言うことも決めなかったということで、何かの既存の形態というものはないからかもしれません。また、私たち聴衆にも、何の既成の型を期待して聴いて欲しくはない、からかもしれません。

 聴いた後であれば、それがどのような音楽であるか、反芻出来ます。しかも、実演ではなく、レコードになっているので、繰り返し聞くことも出来ます。
 それは、ある種、無時間の、そして不動の音楽ではないのでしょうか。彼らが、音盤化した演奏に、『Monstrance (聖体顕示台)』と命名した理由もそこにあるのではないかと感じます。

 パートリッジは、XTC においても、紋様を織るように一定化された旋律を繰り返す手法をよく使っています。彼は、一方で、ミニマル音楽を好み、一方で、童謡(rhyme)を好んでいます。反復・回転する音形がその両者に見られるものです。その音形、渦を巻く音がパートリッジの音楽の核心ではないでしょうか。『Monstrance』に於いても、顕著に聴かれます。(この反復は、ポピュラー音楽でのリフと呼ばれるものとは違っています、経文や聖典の唱和に近いものです)

 パートリッジのギターは、一つの音を廻って非常に狭い音域の中を逍遙しています。それは、線的に展開されるものではありません。また、和声のように整理された階層を見せるものでもありません。一人の人が同じところを歩き続けた末、踏み固めた路が現れるように、その音を脳裏に確固な印象として印そうとしているようです。あるいは、その音を空気から掘り出そうと、一点に集中して聴いているのでしょうか。
 パートリッジは、「solid」なものを目指していると言います。それは、この確固のものではないでしょうか。以前に、ブッドとの共作でも、パートリッジは物質感の強い音を造っていました。ブッドの他の作品とは明らかに異質なものでした。音は、それが発生したものとは離れて、浮遊してるものという感じがブッドの作品の特徴です。けれども、パートリッジとの共作は、彫刻作品のように可視の物体に聴こえました。
 『Monstrance』は、そのような音の彫刻でもないようです。
 ギターを抱えたパートリッジは、反復する旋律を奏でながら、一つ所をぐるぐると回っています。外界とは遮断され、時間も線的に伸びることを止め、円環ヘと閉じます。無時間の不動の時空が出現します。
 それに対して、アンドリューズのキーボードは、液体の感じを抱かせます。それも、広漠とした海と言うものです。そこでは、私たちは、方向も距離の間隔も失っています。うねりがあることは分かるのですが、それがどちらの方角からどちらへ向かっているのかは分かりません。やはり、無時間と不動の時空です。
 彼らは、また、宇宙飛行士をイコンとして、このアルバムに与えています。宇宙空間に置かれた一人の人間も、時間と空間を忘れてしまったのではないでしょうか。

 そのような場所で、あらゆる概念を持たない純粋な精神(音楽)を、彼らは試したのでしょうか。

『monstrance』 on iTunes store

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2007年07月16日

Red Brick Dream

 アルバム『The Big Express』制作の頃、スウィンドンを描くテレビのドキュメンタリーのために書かれたという「Red Brick Dream」。アルバム『The Big Express』とは肌合いが違います。ロードによる録音もされなかったようです。パートリッジ自身が指揮を執ったようです。アルバムには収録されずに、シングル「All You Pretty Girls」に収められました。
 とても好きな歌です。
 霧のような反響が回っています。その谺が作り出す空間と、バース部分の旋律と和声は、初期のピンク・フロイドを思わせます。バレットを失った後の頃のフロイドです。
 ラングレンは、この歌も聴いていたのでしょうか。彼は、これを『Skylarking』に取り上げることもしませんでしたけれど。
 けれども、ラングレンのスタジオでのテイクを聴くと、(XTC がラングレンに送ったデモではなく、スタジオでラングレンが制作した仮ミックスのもの) 「Red Brick Dream」と繋がるように思われます。ラングレンの仮ミックスは、最終版よりずっとサイケデリックです。ラングレンの処理のサイケデリックは、フロイドのものとは違いますが。
 でも、そのテイクで伺われるサイケデリックの感覚を「Red Brick Dream」の谺と並べてみると、『Atom Heart Mother』『Meddle』頃のフロイドの小品と通じているように思われます。
 すると、「Red Brick Dream」を、「Wait Till Your Boat Goes Down」が『Black Sea』の先駆けであったのと同じように、『Skylarking』を予告するものだと考えられるのではないでしょうか。
 『Skylarking』は、『Black Sea』がビートルズの『Rubber Soul』から『Sgt. Pepper's Lonly Herat Club Band』までの音楽の可能性を再発見したように、ピンク・フロイドが『Dark Side of The Moon』までに残してしまった音楽の可能性を、私たちに示す作品になったのかもしれません。
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2007年07月15日

『Wasp Star』のエレクトリック

 私は、アルバム『Wasp Star』がとても好きです。あるいは、彼らの経歴の中で、最も好きなアルバムではないか知ら。これが、今のところ、彼らが発表した最新のものということもあるでしょう。『White Music』以来、私にとってXTC は、常に現在のバンドであるのですから。
 でも、それ以上に、『Wasp Star』は正真正銘のXTC である、という感触がするというのが、理由なのです。全ての旋律、和声、それ以上に、発せられる一音一音が、XTC そのものであると感じられるのです。それは、どれもがこれまでの彼らの手法をなぞっただけのもの、と言うのではありません。反対に、どの音も新鮮で覚醒的です。
 そのように感じる理由は、まず、このアルバムの制作意図にあるのではないかと思います。『Wasp Star』は『Apple Venus』の対になるように企画されたということです。『Apple Venus』は、オーケストラルであり「聖」の面を持っています。それは大掛かりで、ストーンヘンジの中で演奏されるのが相応しいようなものです。それに対して、『Wasp Star』はエレクトリックで「俗」の面を持つように意図されています。
 ですので、個人の家の中で演奏されるのが相応しいように、小編成が組まれています。ここに、まず、彼らの等身大の姿が見られる理由があるのでしょう。
 そして、「俗」であると同時に「エレクトリック」なのです。けれども、私たちは、「エレクトリック(ギター)」と言う語に、惑わされてはいないでしょうか。「エレクトリック」と言ったために、アンプリファイヤされた轟音を思っているのではないでしょうか。
 もういちど、アルバムのアートワークを見てみましょう。ぼんやりした電子線の束が、林檎の形を作っています。何か、遠い過去を細部の輪郭は失せたまま、印象だけを思い出したようです。
 「エレクトリック」という感覚は、この幻像のような感覚なのではないでしょうか。パートリッジも、ムールディングも、この仄かな幻(エレクトリックギター)を膝に抱えて、椅子にか床にか腰を下ろしているのでしょう。その幻が放つ『Wasp Star』で聴かれる音の感触は、震える薄い雲母のようです。この肌合いは、オーケストラや弦楽四重奏では得られないでしょう。そして、この肌を軽く痺れさせる感触は、とても個人的な感慨を呼び起こすようです。
 そして、湧き出した旋律はどれも、パートリッジ、ムールディングの個人の境涯を通過して来たもので、彼ら個人の特質が深く刻まれています。

 「エレクトリック」に関して、パートリッジは、XTCファンブログのTodd Bemhart 氏との対談で、mechanized をテーマに興味深い話をしています。(We're All right についての対談) 彼が、エレクトリックを指向する時は、緊切なものを目指しているということ、そして、機械的に加工された音への嗜好には抗っているということです。パートリッジが機器の性能に注意するのは、音を加工するためではなく、音を捉えるためです。これは、優れた写真家たちがデジタル写真を使わないのと似ています。非常に微細な階層においてまでコントラストを際立たせるデジタル写真は、見た目には、鮮明で明瞭な画面になります。写真家たちはそれを取りません。光の浸食、陽光が事物に当りそれに食い込んで行く過程、それを捉えようとする写真家たちは、やはり、銀盤写真を選んでいます。パートリッジも、アンプリファイアされて音量が増すことや、音を加工することを望んではいないのでしょう。彼の耳朶に直接触れる音色を求めているのではないでしょうか。

 『Wasp Star』は、エレクトリックを選ぶことで、親密感を得ています。そして、少しでも疎遠なものは削ぎ落としています。それだから、あまりにXTC 的に聴こえるのではないでしょうか。

 それよりなにより、パートリッジの旋律にムールディングがコーラスをつける、その感じが、気持ちよくて好きなのです。ずいぶん長いこと、それがなかったような気がします。まるで、『White Music』の時のように、全曲で二人の声の絡みが聴けます。これが、XTC なんだな、と、思います。XTC そのものなんだと。
posted by ノエルかえる at 17:44| Comment(0) | TrackBack(0) | Wasp Star | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月05日

Great Fire

 縮れた風合いのギターが聴こえます。それは、微小な粒子が対流にのって揺らめく様子が、何処からか反射された光で間接的に照らされて、目に見えることが出来たという、そのような静かな興奮と驚きを感じさせます。それは、また、とても大きな広がりを持った音楽の始まりを感じさせています。XTC が、彼らの経歴の中で初めて、弦楽を使用したこの歌は、この予感のとおりに、宏大な世界を持ったものです。
 縮れたギターの音色は、遠くで鳴るかのような半鐘の音に重ねられます。私の想像中には、赤く映えた空を背景にした黒々とした丘の影姿が浮かびます。その赤い空は揺らいでいます。丘まではとても遠いので、その距離が影をより深めて濃密にしているようです。
 そして、太鼓が空間を打ち破ります。太鼓は、大地が影ではなく、私たちが今あることを確かに証す固い基盤であることを、言っているようです。しかしながら、この太鼓に重ねられるベースは長い振幅の幅を持った波となっています。それだから、この固い大地も、また、変化の速度が極度に遅いとしても、ある傾きの中にはあると、囁いているのでしょう。
 乱れたサックスの旋律が微かに鳴り、弦楽を導入します。弦楽は、この時、板の上を膜のように薄く流れる水のようです。そして、その薄水を背景にして始めたパートリッジの唱いは、棒読みの口上書きのように聴こえます。地面に真直ぐ打立てられた杭のようです。それは、自身の存立を風化させることのないように記念するかのようです。
 固かったパートリッジの唱いは、歌詞の二連目になって変わります。それは、地面に立った固い杭に風が吹き当り虎落笛が鳴り出したかのように、固形の芯から、旋律が解き出してゆくようです。その旋律は、次第に高まり、高空へと拡がってゆきます。歌詞の3連目には、旋律は風を孕んだ旗のように高揚しています。この時に、弦楽はシンフォニックな響きを鳴らせています。そして、ピアノによる下降。
 「Great Fire」の歌詞は、定型感があります。ソネットではないのですが、それに近いものです。5行、4行、3行の連が一つの定式になっています。これは、4行3連と2行のソネットよりもリズムが複雑化されて、陰影が深いのではないでしょうか。パートリッジは、この5、4、3を二度繰り返します。繰り返しでは、パートリッジの歌唱は、咽音を濁らせて旋律に皺を作っています。また、ピアノも連打音を入れて、複層的なリズムを作っています。
 5、4、3が繰り返された後、再び、5行の連が現れます。これは、前の定式が持っていた旋律とは違います。別の音楽空間がもたらされています。連の韻の踏み方も、定式の5行の連とは違うものです。ここでは、鏡のように平たい水面に映された幻影を見るような感覚が起ります。弦楽は、水滴を思わせるようなピチカートです。この静かな場面は、「消防士」と言う語が想起させた半鐘が次第に高まっていって、音楽は、再び揺らいでいる世界へと帰ります。
 再び帰ったそこでは、揺らぎが引き起こした小さな漣が、互いに打ち鳴らし合い、それが、次第に轟音へ束ねられてゆく様子を見ることになります。それは、「Great fire burning through my house」の大地的な響きと、「heart」の浄化された天上的な響きの融合でもあります。

 パートリッジの最大の傑作です。


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posted by ノエルかえる at 16:17| Comment(0) | TrackBack(0) | Mummer | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月02日

ジャズシンガー 林夕紀子さん の「Dear God」

 ジャズシンガー 林夕紀子さんが、2007年発表のアルバム『Timbre』に、「Dear God」を収録しています。

TONE

『Timbre』を紹介しているブログ、試聴も可、:
ewe EastWorksEntertaiment inc.


posted by ノエルかえる at 21:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする